血糖値を下げるインスリンとは
「インスリン」という言葉は知っているけれど、実際何をするものかを知らない方も多いと思います。インスリンは、消化液や数々のホルモンを分泌する膵臓から分泌されるホルモンの1つです。高くなってしまった血糖値を下げるためには、インスリンの働きが必要不可欠であり、体内で足りなくなったインスリンを補う目的で、人工的に生成されたインスリンを注入します。
薬物療法(インスリン注射)の種類
超速効型インスリン製剤
- 食事前に超速効型インスリン製剤をご自身で注射して頂きます。
- 薬剤を注入後、10~20分程度でインスリンの効果が現れ、3~5時間程度効果が持続します。
- 最近では超々即効型インスリンという、超速効型よりもさらに早く効果が現われるインスリンが登場しています。1型糖尿病の患者さんや、食後に血糖値の立ち上がりが早い方、またどうしても食後打ちになってしまう方に適しています。
速効型インスリン製剤
- 食事前にご自身で注射して頂きます。
- 薬剤を注入後、30分~1時間程度でインスリンの効果が現れ、5~8時間程度効果が持続します。
中間型インスリン製剤
- 朝食の直前や朝食前の30分以内に打つタイプのものがあります。1日に投与する回数をご自身で増やすことが可能です。
- 薬剤を注入後、30分~3時間程度でインスリンの効果が現れ、18~24時間程度効果が持続します。
混合型インスリン製剤
- 朝食直前、朝食前、朝食直前と夕食直前、朝食前と夕食前30分以内に、ご自身で注射するタイプがあります。
- この製剤には、様々な割合で速効型インスリン製剤(超速効型)と中間型インスリン製剤が混合されています。
- 速効型インスリン製剤(超速効型)と中間型インスリン製剤を混ぜているので、各製剤の効果が現れる時間に効いてきます。中間型インスリンとほぼ同等の効果持続時間です。
配合溶解インスリン製剤
- 1日1回食前に、もしくは朝食か夕食の直前に1日2回、ご自身で注射してもらいます。
- この製剤には、超速効型インスリン製剤と持効型溶解インスリン製剤が混合されています。
- 速効型インスリン製剤(超速効型)と持効型溶解インスリン製剤を混ぜているので、各製剤の効果が現れる時間に効いてきます。持効型溶解インスリン製剤とほぼ同等の効果持続時間です。
持効型溶解インスリン製剤
- 朝食前、夕食前、就寝前、朝食前と夕食前、朝食前と就寝前に、ご自身で注射するタイプがあります。
- 薬剤を注入後、1~2時間程度でインスリンの効果が現れ、約1日効果が持続します。
- 1日中血糖値が下がります。
薬物療法(インスリン注射)の打ち方
注射の前に行うこと
インスリンの種類、針、カートリッジをチェックしてから、インスリンカートリッジの蓋を取り外します。
エタノールを含ませたカット綿でゴム栓を消毒し、注射針を装着します。
ペンニードルなどのインスリン用の注射針をゴム栓に刺し、止まるまで回したら、注射針の取り付け完了です。この際、針のケースとキャップを外して使用しましょう。なお、針のケースは使用した針を入れるのに使用するので、捨てずに保管してください。
空打ちの方法
空打ちは、インスリンカートリッジの中に溜まった空気を取り除き、注射液がしっかり出ることを確認する目的があります。
インスリンの単位数を2に合わせ、インスリン溶液の中に溜まった気泡を上に集めるため、針先を上に向けます。その状態で2~3回指ではじいて、気泡を上に移動させたら、注入ボタンを押しましょう。インスリン注射液が正常に出ているか確認してください。
単位の設定方法
インスリンのカートリッジに記載されているインスリンの残量目盛を確認し、必要な量が入っているか確認してから、投与する単位を設定します。単位のダイヤルが0になっているのを確認し、ダイヤルを回して医師から伝えられた単位に設定します。
皮下注射の方法と注意点
注射する準備ができたら、皮下注射を行います。エタノールが含まれたカット綿で消毒してから、肌に針を刺して注入ボタンを押しましょう。このように簡単な作業で、注射そのものは終了します。
なお、皮下注射を行う際は、下記で紹介する注意事項に従って頂くことが必要です。
- 注射を打つ部位
- 毎回注射を打つ部位はずらす
- 注射を打ったら10秒数える
注射を打つ部位
一般的に、注射を打つ部位は腕、足、おへその辺りです。
医師の指示などがなければ、腹部へ注射しましょう。外に露出した部位だと、皮膚の温度や血流などでインスリンの吸収速度が変わる恐れがあります。太ももや腕だと、服から露出していることが多く、血流の変動が起こりやすい部位でもあるので、インスリンの吸収速度が遅くなる可能性があります。
毎回注射を打つ部位はずらす
毎回、注射する部位を1~2㎝ずらし、同じ部位に注射しないように注意してください。
同じ部位に注射し続けた場合、皮膚がだんだん硬くなります。これは全身の皮膚に言えることです。同じ部位に針を刺し続けると、その部位の組織が硬くなる「硬結」という状態を引き起こす可能性があります。この皮膚にできた硬いしこり(皮下硬結)のことを、「インスリンボール」や「リボハイパートロフィー」と言います。
しこりができて硬くなった皮膚に注射しても、インスリンの吸収が悪くなって血糖を一定に維持することができなくなる恐れがあります。
注射を打ったら10秒数える
皮膚をつまんでからインスリンを注射します。注射針を皮膚に対してまっすぐ刺し、注入ボタンを押して注射を打ちます。この時、10秒数えましょう。
10秒数えないうちに抜いてしまうと、インスリン液が溢れ出す可能性があります。注射を打ってから5~6秒以上おき、皮膚から針を抜くのが良いとされています。数え方は人それぞれのため、10秒くらい数えるのがお勧めです。
インスリンの副作用
インスリンの副作用として低血糖が挙げられます。血糖値が70mg/dL以下になると動悸、めまい、冷や汗、震えといった症状が現れ、意識障害を起こす方もいらっしゃいます。
低血糖以外では、インスリンボールという副作用もあります。薬物療法(インスリン注射)を毎回同じ部位に刺し続けることで、肌が硬くなり、ピンポン玉のようなしこりができます。これは、同じ部位に注射を打ち続けると、その周りの組織や肌が痛んでしまうため起こる症状です。
体に害を与えることはないのですが、インスリンボールが自然に小さくなって消失ことはほとんど望めません。またインスリンボールができているところにインスリンを打っても、血糖値を下げる効果が現われにくくなります。「インスリンをたくさん打っているのに、血糖値が全然下がらない」とい場合は、お腹にしこりができていないか確かめてみてください。インスリンボールは、当院にて超音波検査(エコー)で診断可能です。